
今から36年前、インドを旅していた。
南インドのタミールナドゥ州にある唯一フランス領だったポンディシェリィ。
街のはずれにセラニティと言うビーチがあった。
安コテージや安レストランが点在している所で、フランス人をはじめヨーロピアン
のヒッピーやらが多かった。
まぁビーチと言っても当時は漁師達の部落の一画であった。
私はそこでココナッツの葉や幹や竹で作られた2F建てのコテージをしばらく借りていた。
ある昼下がり、私は屋根のない砂地に置かれた椅子とテーブルだけというレストラン
で人気のバナナクレープとココナッツミルクシェイクを楽しんでいた時だった。
私のウエストバッグに付けていたバッチを指さして話しかけてきた人がいた。
髪型の美しい人であった。
初めて見かけた人で今日ここに着いたという。
フランスからバカンスで訪れ、この場所には7年前から毎年来ていることなど
フランス語など解らない私なので、お互いたどたどしい英語での出逢いであった。
そしてその日の夕方、私のコテージのドアにノックがあった。
開けて見ると昼に言葉を交わしたその人がバックを担いで立っていた。
「あなたのコテージをシェアしたい。」「えっ!」
欧米の人のこういったシェアの感覚は日本人のそれとは大きく隔たりがある。
戸惑う私に「あなたのコテージは2F建てで2部屋あるし、節約にもなるでしょ!」
と言って中に入りバックを下ろしたのであった。
強引ではあったが、それよりもこの人に対する興味の方が強かった。
こうして数か月一人旅であった私の生活はこの日から一気に変化するのであった。
翌朝の夜明け前、私は起こされた。
「えっ!何!?」
「ビーチへ行く」「えっ、何で?私も?」
「そう、一緒に」訳が分からぬまま、眼をこすりながら外に出た。
ココナッツの林と黄褐色の砂が全て黒く染まっていた。
インド洋の高い波音だけが聞こえる。
波打ち際に近づくと
「さぁ、ここに座って待ちましょう」「えっ、待つぅ?」
そして4~5分後。
水平線が段々と明るくなってきた。
それから淡い靄(もや)の中から太陽が。
ゆっくり、ゆっくり、ゆっくりと。
靄があるので眩しくはなく、それは幻想的というか絵の中だった。
渋いオレンジ色から始まり、黄色の層が現れ、更に淡いピンクも重なった。
それらの色が微妙に変化しながら太陽の丸い全体象が水平線に浮かび上がった。
水平線上には緑色の線も走っている。
何も言葉が出なかった。
隣からは小さな声で神々を讃えるマントラが聞こえていた。
水平線から離れていくにつれ海の靄は引き始め、眩しさと熱を放つ
よく見る太陽に変わっていた。
<続く>
画像は水牛の角。
この時の旅で、ヒマラヤの麓の山小屋に一か月逗留していた時彫ったもの。
ごついペーパーナイフです。
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- 2022/12/14(水) 06:09:03|
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